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”初”日の出

「え…明日の天気、雪?」

鎮守府の食堂で重箱におせち料理を詰め込んでいた私たちの提督、連理が信じられないという顔で言った。

「嘘だろ、天津…。昨日までの予報ならぎりぎりで晴れるって言ってたじゃないか……」
「そ、そんなこと言われても、天気予報でそう言ってたのよ。低気圧が予想よりも発達して移動するから?らしいわよ」
「榛名も天津風さんと見ていましたけど、その通りでした。そして、明日一日雪になると」
「うっそ~ん」

明らかに連理は落ち込んでいた。
それもそのはず、正月はやっぱり初日の出見ないと!と盛り上がっていたのだ。
そして、連理だけじゃなかった。
私、天津風を含めたみんなががっかりしていた。

「初日の出、見れねえのか」
「そんなに落ち込まなくてもいいじゃない。元旦に見えなかったら二日に見ればいいんだし、それに日の出くらいならいつでも見えるじゃない」
「そうだけどさ、やっぱり初日の出って拝みたいじゃん?ほら、初物と言われたら食べたくなるのと同じよう感じ」
「わからないことないですけど…お天気ですし」
「そうよ、榛名さんの言う通りだわ」
「う~ん、わかっちゃいるんだよ。わかっちゃな…」

だけど、割り切れないと言った声だった。
私だってこの艦娘として初めて迎えるお正月はわくわくしてるし、初日の出だって楽しみにしていたけど、ここまで落ち込まない。
また再来年かな?と思うだけ。

(ねえ、榛名さん。そんなに初日の出っていいものなの?)
(うう~ん、人によりけりって感じですね。だけど、提督…じゃなくて連理さんは毎年楽しみにしておられるんです)
(吾輩はどっちでもいいんじゃがな。不思議と初日の出を見ないお正月は何か物足りなくなってしまうんじゃよなあ)
(大切な一部って感じなの?)
(そういう感じですね)

「ほらそこ。早くおせちを詰めないと特番見れないぞ~」
「「「は~い」」」

連理から注意されて、そこからは初日の出が話題に上らなくなった。

そのあとは、みんな一生懸命きれいにおせちをお重に詰めて、そのあと公共番組の歌番組見たり、民放のクイズ見たり、笑ってはいけないような番組を見て過ごし、

「お蕎麦できましたよ~」
「来たぞ、年越しそばだー!!」
「なんでえび天があるんだ?これ提督のか?」
「よくわかったな天龍。それは俺が食いたいってリクエストしたんだよ」
「「え~?」」

間宮さんと伊良湖さんが作った手打ちそばに舌鼓を打ち、

「もうすぐ年越しだけど、みんなおきてるか?」
「軽巡はみんな起きてま~す」
「比叡?起きてマスか?」
「私、ちゃんと、起きてます!」
「五航戦の子が寝てます」
「…っは!起きてるわよ!!って、翔鶴姉。なんで笑ってるの~」
「ほら、年明けるぞ。3、2、1・・・」

「「「「あけましておめでとうございます」」」」

新年のあいさつが大合唱になって、みんなで笑ってから寝た。







チョンチョン
……チョンチョンチョンチョン

「ん…何……?」

誰かに突かれる感触で目を覚ますと、連装砲君が目の前にいた。
そばには島風の連装砲ちゃんに秋月の長10㎝砲ちゃんもいる。
鎮守府不思議生命体(?)そろい踏みなのに、その主人たちは見えない。

「どうしたのよ、いったい」

キュイキュイと必死に身振り手振りで私に何か伝えようとしてるけどさっぱりわからない。
何か外が気になるのかしら?
部屋の中だからあったかいけど、きっと外は寒いだろうからマフラーと手袋をつけておきる。

「さて、どうしたの?」

キュイキュイーー

「あ、ちょっと待って!」

よほど早急に知らせたいことがあるのか5匹(?)の砲たちがわらわらと廊下に出ていった。
ふと思ったけど、あの子たちどうやって入ってきたのかしら。
ドアノブの高さはあの子たちの背丈よりも上の方にあるのに…

キュイーー

「あ、ごめんね。すぐ行くわ」

まだ日が出てきてないから廊下は薄暗くて、すごい寒い。
連装砲君たちは寒くないのかしら?
そんな私の思いとは関係なしに連装砲たちはずんずんと廊下を突き進んでいく。
寮から出て本館と呼ばれる執務室や食堂とかが入った屋内に入った。

「屋上なの?」

キュイキュイーー

「あ、ちょっと!」

私を屋上まで案内すると彼(?)らは満足したように私を置いて、どこかへ駆け足で行ってしまった。

「屋上に一体何があるのよ。うう、寒い!」

こんなところに来るんだったらもう少し防寒の用意をしてくればよかったけど、後の祭り。
それよりも連装砲君たちがなんで私をここに行かせたのかが気になったので、取りに戻ろうとは思わなかった。
まだ暗い空、それに冷たい空気のせいで見えてはいけないものでもいるんじゃないかと思ってしまう。
だから、

「て、提督?」
「よっ」

気持ちよさそうに夜風を浴びてる連理を見つけた時はびっくりした。

「ど、どうしたのこんな時間に」
「そりゃこっちのセリフ。お前さん、ゆっくり寝るって言っとったのにどうしたんだ?あ、夜風にでも受けに来た?」
「そんなわけないじゃない。連装砲君がここに連れてきたんだけど…あなたの差し金じゃないの?」
「なんで俺が寝てる子を起こすんだよ」

ぷっく~と連理が頬を膨らませた。

「それもそうよね…」
「信じてくれたか」
「ええ。それで質問し直すけど、あなたはここで何やってたの?こんな曇り空だから星を見に来たわけじゃないでしょうし、夜風を受けに来たなんてこともないでしょうし」
「あ~、初日の出を見にな」
「初日の出…って雪降るから見れないって言ってたじゃない。呆れた」
「そうなんだけどさ、見れるんじゃないかと思って」
「何をそんなにムキになる必要あるのよ」
「だって、雪降るから無理だって諦めた年さ、めっちゃ晴れてたんだよね。それも何回も。だから今回もみんなは諦めてるけど晴れるんじゃないかって思って、うお!」
「きゃっ!」

突然、連理のポケットに入ってたスマホのアラームが静かの夜にけたたましく鳴り響いた。
全く予想もしていなかった音につい悲鳴を上げてしまった。

「おお、ごめん。時間だ」

私に背を向け、東からちょっとずれた方向をじっと見始めた。
まだどんよりとした雲が覆ってる。
それでも彼は期待に満ちた目でずっと見てた。
私もそんな気じゃなかったのに、いつの間にか彼と並んでずっと見てた。
そしたら15分位たった時、

「天津風!あれ!!」
「私も見てるから大声出さなくてもいいわよ!」

急に雲が晴れ、昼間の太陽とは全く違う、真っ赤な太陽が雲の隙間から顔をのぞかせた。
夜戦明けに日の出を何回も見ているが、なんか、こう…言葉では表せないような思いが胸に溢れてきた。
そう、これが初日の出…
良いものね。

「……」

そっと隣を見ると穏やかな表情で祈っていた。

「ほら、見えたろ?」

そういう彼の顔は本当にうれしそうで。

「そうね、今年もよろしくね。あなた」

私もうれしかった。
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提督、出撃す

風があまりなく、空に浮かんだ月を海は静かに映していた。
誰もが眠る深夜のこの時間、たくさん泊まっている船の一つだけ明かりがついていた。
せわしく男の人たちが積み荷を船にいれている。
ほどなくしてすべて積み終えた船は、静かな夜に暴力的なエンジン音を轟かせて漁港から出港した。
ところで、深海棲艦は夜の方が活発に活動をする。
特に昼では護衛をつけている限り、脅威になりにくい駆逐クラスがそのいい例だろう。
どんなに練度を高めた艦娘さえ、一撃で大破、運が悪いと…轟沈するのだから。

「こちら後方、異常なし」
『前方、異常なし』
『左方、同じく』
『右方、異常なし』
『了解した。まもなく湾内を出て外洋に出る。各自注意してくれ』

港内を出るか出ないかというときに一気に船のスピードが上がった。
一気に港の明かりが遠くに消えていく。
あまりこういう風系を見るのは好きじゃなかったが、任務の為だから仕方ない。
そして、もう月と星明かりしかなくなったころ。

「いや、外寒いですね」
「ぅおう!?」

後ろからいきなり話しかけられて、飛び上がった。
声をかけてきた男は苦笑してる。

「そんなに驚かなくても」
「馬鹿野郎…誰もここには来ないことの方が多いから、びっくりするにきまってるじゃねえか。んで、何の用だ?」
「寒いだろうなと思って、コーヒーを煎れてきたんですが、飲みます?」
「…もらう」

男が持って来たコーヒーはすぐに飲める程度にあったかいものだった。

「うまいじゃねえか」
「ありがとうございます」

いつの間にか男は自分の隣に座っていた。
そして水平線ではなく、天を仰ぎ見ていた。

「今日は月が明るいですね」
「満月だろう、たしか。じゃないと、海が見えないからな。ほんの一秒発見が遅れただけで、俺らが沈む可能性がある」
「深海棲艦ですか…」
「それだけじゃない。お前、新入りか?」

顔も見たことないし、こんな質問を一度この船に乗ったことがあるやつならしない。

「はい、今回が初めてです」
「そうかい。それなら教えるけどよう、夜間の脅威は何も深海棲艦だけじゃない。艦娘もそうだ」
「艦娘もですか!?」
「ああ、向こうも俺たちと同じで深海棲艦を恐れている。何か動いているものを見つけると、取り合えず襲ってくる。まあ、載せている物が物だから、それを狙ってくるというものもあるんだろうけどな」
「載せてるもの?資材だけじゃないんですか??」
「ああ、艦娘もだよ」

それを聞いた時のやつの目を俺は生涯忘れないだろう。
視線だけですべてを切ってしまえる、そういった冷たく、鋭利な目だった。
いきなりやつは立ち上がると、素早く手を振った。
ひゅんっと風を切る音がしたと思ったら顔が熱くなって、目の前が突然真っ赤になった。
痛みはない。
あるのは猛烈な熱。




『こちら後方!裏切者が船内に!!』
「なにっ!?」
「おい、どういうことだ!」
「わかんねえよ!」
突然の裏切者の発生。
今まで静かだった船内が一気に騒がしくなった。

『左方、後方の援護に入る!』
『右方も行きます!』

ドタバタと走る音が操縦室にいる船長と副船長にも聞こえてきた。
副船長も船内から飛び出そうとした。

「俺も行く!」
「ばか!この船で一番強いお前が出ていくな!!」
「なんでだ!!」
「いいからここにいて俺を守れ!!裏切者が積み荷を盗んでこの広い海に飛び込むとは思えん!!」

なるほど、と副船長は思った。
たしかにこの広い太平洋のど真ん中で積み荷を抱えて飛び込むなど、自殺以外何物でもない。
そうなると船を掌握しに来るのは必然だろう。
そうなればこちらから出向かなくても、向こうからきてくれる。
この船に乗り込んでいる者たちは曲者ぞろいだからちょっとやそっとでは倒せないだろう。
もし倒したと言っても時間がかかるからその間に対策を立てれる。
しかし、異変は終わらない。


「なんだっ!!??」
『ぐぁぁあ!!』

夜だというのに、突然前方が真昼のように明るくなった。
暗闇に慣れた目にいきなりの強い光。
あまりの光量に立てなくなってしまい、まともに見てしまった船長、そして前の見張りが倒れた。
唯一、後ろからやってくるだろうと思われる裏切者を待ち構えていた副船長だけがその難を逃れた。

「大丈夫か!」
「俺なんか後でいい!それよりも裏切者だ!!」

船長がそう怒鳴ると同時にドアが外からあけられた。
そこには月を背に、黒い服で身を包んだ男がいた。
一目見ただけで油断したら負ける…そう感じた。

「お前か、裏切者は」
「…うまく照明弾の光から逃れたか」
「偶然だったがな」
「そうか」

それだけいうと、裏切者が手を振った。
嫌な予感がし、反射的に横に転がる。
風邪を切る音と、バチン!と何かを叩いたような音がほぼ同時になった。
いまだ視力が戻らない船長は「ひっ!」と言って身を縮める。
転がった拍子に腰に装着していた拳銃を取り出し、銃口を裏切者がいたところに向ける。
しかし、裏切者はもうすでにそこにはいなかった。
自分が転がると同時に向こうも合わせるように動いたのだ。
だからといって大きく場所がずれたわけじゃない。
大まかに銃口を向けて撃とうとした。
が、それよりも早く裏切者の謎の攻撃のほうが速かった。
不可視の攻撃が手に当たり、銃が手からこぼれる。

「くそが!」

落ちた銃を拾うよりもぶちかます方が速い。
そう判断して裏切者に突っ込もうとした瞬間、どきゃ、と何かが、眉間に…




何なんだあいつ!
うちの中で一番強い奴を簡単にあしらいやがった。
とりえず逃げないと。
あんな奴、俺なんかが勝てるわけがない!
確かこっちに脱出用のボートが…

「あら、提督の言う通りでしたね」
「…だれだ、お前」

オレンジ色の制服に白い鉢巻の少女。
まさかの艦娘様がいた。
手には赤く塗られた木刀。
そういえば、見張りのやつらの気配が無い。
…やられたのか。

「川内型二番艦、神通と申します。あなたはこの船の船長さんですか?」
「…そうだ」
「そうですか。ここまで提督の言う通りに動いているとすると恐ろしいものです」
「提督、だと?」

この作戦を考えたのが?
バカな。
自分たちのコマを把握するのもそうだが、相手の駒も把握しないと神通とかいう艦娘が言うように、きれいに動くなんてありえない。
と、そうじゃない。

「そこをどけ」
「それはできません」
「いいからどけ!!」
「お断りします!」

スッと神通が木刀を構える。
俺は…

「あ!待ちなさい!!」

逃げた。
艤装をつけた艦娘とやり合うなんざ、自殺行為だ。
どんなバカでもそれぐらい知ってる。
けど、こんな限られた狭い船、どこに逃げればいい?

「どこに行こうとしてるんだ?」
「ひっ!?」

反対側に行くと、先ほどの裏切者が待ち構えていた。
引き返そうにも、後ろからは神通が追ってきている。
もう、覚悟を決めるしかなかった。

「お願いだ!!あんたらの言うことは何でも聞く。だから、だから殺さないでくれ!お願いします!!!」

プライドとか全部かなぐり捨てて土下座した。
こんなやつらから逃げれるなんて思わなかった。
艦娘がいる時点で、もう勝ち目なんてないのだ。
あとは何とかして生き延びる、それしかなかった。

「どうしますか、提督」
「手だけしばれ。どうやら密輸してるのは資材だけじゃなく、仲間もらしいからな。場所を聞かないと」

裏切者――提督が紐を取りだし、きっちりと縛った。
本当に縛っただけで、痛みはなかったことに驚きを覚えた。
ひどい拷問を覚悟していた分、なおさらだった。

「さて、どこに何を積んであるのかしゃべってもらおうか。素直に言わなかったら…」
「しゃべります!まず、艦娘が…」
「まて。神通、行けるか?」
「はい、見てきます」

こうして、すべて白状したのち、いつの間に呼んだのか、夜明けとともに来た海上警察に拘束された。



「おはようございます、提督」
「…あと20分」
「え、こ、困ります。起きてくださいよ~」

本当に困ったように言ってきた。
昨日の作戦時と今、本当に同一人物なんだろうか?
いや、同一人物だけど。
あんまり困らせるのもあれなんで、とりあえず起きる。
いつも見るような鎮守府の内装ではなく、ちゃんとした和室だった。
ここはどこだ?海辺の旅館だ。

「中居さんが今来まして、朝ごはんができたって…。食べますか?」
「中に入れておいてもらって。さすがに寝起きでいきなり食いたくない」
「わかりました」

ええ子や。
とりあえず着替えんとな。
とそこでじーっと神通が見てることに気付いた。

「ん?どした??」
「いえ、なんだか提督が別人みたいで」
「本物ですよ?」
「そうじゃなくって、ふふっ。昨日の提督と全然違うので」

よっぽどおかしいのか、くすくすと笑ってる。

「昨日の夜は氷みたいに冷たかったのに、今は暖かいひなたのような雰囲気ですから」
「昼の顔と夜の顔、みたいな?」
「一般人と仕事人みたいな感じです」

頭に仕事人のテーマソングが流れる。
うん、違うだろ。

「違うと思いましたね?」
「…うん」
「私も時々戦闘時と平時と全く違うって言われますけど、そんな感じなんですよ」

なるほどね。
確かに言われてみればそうかも。

「はい、朝ごはんです。それとお手紙が来たみたいです」
「お、サンキュ」

今日の朝ごはんは出汁巻き卵か、うまそう。
それにお手紙は・・?

「提督、ご飯の時にお手紙は…」
「ごめん、ちょっと見逃して?」
「んもぅ、今日だけですよ?鎮守府だと他の子の示しにつきませんから」
「ありがと、神通」

手紙は二通。
一通は昨日、いや今日の夜中に捕えた奴らのこと。

「奴らの黒幕がわかった。」
「黒幕、ですか?」
「ああ、予想通りの鎮守府だった」

いい噂しかない鎮守府だった。
だからなんとなく事前に調査したんだけど、まさかの当たりだった。
だからそこが黒幕と言われても「やっぱり?」としか言えない。

「どうするんですか?」

神通の顔が戦闘時のそれに変わっていた。

「…いや、まだだ」
「まだ調査するのですか?もう、十分だと思いますが」
「証言がほしい」

神通がハッとした。

「昨日保護した野分、彼女からとる」

今の俺は笑ってるのだろうか。それとも厳しい顔なのか。

「ただ、彼女は…」
「そうだ、まだ目を覚ましていない」

よっぽどの極限状態だったのだろう。
保護した時、もはや立てないほどだった。
今はうちの鎮守府から呼び寄せた明石に様子を見てもらってる。
外傷、内傷共にないということだから、目を覚ますのは時間の問題だろう。

「ま、こればっかりは待つしかない」
「そうですね」

2人とも同時にみそ汁を飲んだ。
赤みそだった。
名古屋生まれの自分には懐かしいような、でも、やっぱり違うよぅな…。
たまには実家から送ってもらおうかな?

「もう一通はどこからです?」
「鎮守府から、らしい」

なんで?という顔されても困る。
俺もわかんないし。

「榛名と天津風からだ」

榛名からは鎮守府の様子の報告だった。
特に問題はないらしい。
それとボーキサイトが順調に溜まっているとのことだった。
天津風のほうは自分の体を気遣うものだった。
本当は電話で話したかったが、時間が合わない可能性もあるのでこちらにしたと書いてあった。

「鎮守府は今日も平和だそうだ。それと、いっつも無茶して体壊して帰ってくるから気をつけろだって」
「見透かされていますね」
「まだ無茶はしていないだろ?」
「これからするんでしょう?」

どう返そうかと思ったら、コンコンとドアをノックされた。

「どうぞ」
「失礼します提督、明石です。野分ちゃんが目を覚ましました」
「わかった。今行く」

残ってたご飯を一気にかっ込む。
一方の神通はすでに食べ終えていて、準備万端だった。

「んじゃ、いきますか」
「はい」



野分が寝かされていた部屋は自分たちの部屋の隣だった。
本当はここはとっていなくて、急遽手配してもらったのだ。
ちょっとそのことで宿屋の主人と揉めたけど、それはまた別の話。

「野分、入ってもいいか?」

返事はない。
寝ているのだろうか?

「なあ、入ってもいいのこれ?」

後ろで待機してる明石と神通に聞く。
先に答えたのは彼女を昨夜からずっと看病していた明石だった。

「起きていると思いますから大丈夫ですよ」
「ほんとに?」
「提督、そこはその、男らしくいきましょう?」
「う……」

男らしくですか…
問答無用に入れってこと?
それはそれで問題な気がする。
ということでもう一回聞いてみた。

「それじゃ、野分。入るぞ?」
「…はい」

今度は返事があった。
これでなかったらまた後にしようと思ってたのに。
中に入ると、少し狭い部屋の中、野分がぽつんと寝ていた。
少し狭いと言っても、八畳ある部屋の中で一人、ポツンと。
なんかすっごい寂しそうなんですが。

「大丈夫か?」
「大丈夫です…と言いたいんですが、すいません。まだ起き上がれなくて…」
「ああ、いいよ。別に無理なくても」
「すいません」
「謝らないでもいいよ」

それにしてもかわいいというよりもかっこいいな、この子。
と、後ろからなんか冷たい視線が。

「提督?榛名さんや天津風ちゃんに言いつけますよ?」
「何をだよ。まだ何もやってないだろ?」
「ええ、まだ何もやってませんね。ねえ、明石さん」
「そうですね、まだ、ですね」
「なんだよ…」
「「なんでも、です」」

一体自分が何をしたというのだ。
そんな自分たちを見て野分はくすくす笑っていた。

「さて、本題に入るけどいいか?」
「はい」

すぐに野分は笑顔をひっこめた。
せっかく笑っていたのだから、そのまま笑わせてあげたかったがそういうわけにもいかない理由があった。

この野分はどこかに売られようとしていた。

売ろうとしていた鎮守府はすでに特定できているが、向こうがやったという証拠が弱かった。
なにせ、密輸船の船員の供述が嘘の可能性もあるからだ。
密輸された資材がどこの鎮守府かわからない限り、疑惑の鎮守府を罰することもできない。
そこで、彼女の証言である。
彼女が証言さえしてくれれば決定打になるのである。

「君はどこかに売られようとしていた。それはわかるか?」
「ええ、あの人がそう言っていたので」
「なんで、売られるようなことに?」
「それは…」

野分が布団を握る手に力を入れた。

「それは、私が秋月さんや夕立さんみたいに特別強いわけでもなく、改二と呼ばれる特別な改装ができるわけでもなく、そして、遠征すらまともに出来ないからって!!」

その時のことを鮮明に思い出したのだろう。
彼女の頬に涙が流れた。
それを神通がティッシュでやさしく拭ってあげ、同時に頭をなでた。

「お、お前みたいな艦を取りに、取りにいかなきゃよかったって!!うっううぅぅ!!」
「辛かったですね、野分さん。もう、大丈夫ですから、ね?」
「うぅ~~!!」

神通は野分を抱きしめ、野分は泣いた。
司令官に無価値だと言われ、しかも売られそうになった。
相当悔しく、そして怖かったのだろう。
彼女にこれ以上聞くのは辛かった。

「すまなかった、野分。嫌なこと思い出させて」
「提督」

どこに行くのかと神通は目で問うてきた。

「外に行ってくる。二人とも、野分の世話を頼んだ」

立ち上がって外に出た。




広がる砂浜。
潮の香り。
堤防の上に一人で座っていた。
冬の暴力的な潮風が痛い。

「まさか、外に行ってくると言われてここまで行ってると思わないだろうなぁ」

宿を出てから一時間半くらい電車やバスを乗り継いで、ここ、疑惑の鎮守府周辺まで来た。
その後、色々と聞き込みなどしたのだが、残念ながらボロは一つも出てこなかった。
中には入っていないけど、敷地内はきれいに花が植えられてて、どこも整備が行き届いているようだった。

「黒幕だとわかってはいるんだけど、手が出せない…か。いや、出せるけど」

イマイチ乗り切れていなかった。
密輸はほとんど確定だし、人身売買も売り手なのかどうかは置いといて確定的だし。
でも、なんか引っかかってる。
なんで野分を売ろうとした?
金になるから?
でも、ばれた時のリスクが高すぎる…

「あ~~!わっかんねえ!!」

もう逮捕の手続きしちゃおっか。
そしたら悩まないで全部おしまい。
あとは憲兵さんたちに任せておけば…
そこまで考えた時に携帯が鳴った。

「っと、はいもしもし」
「提督、ですか?」
「どうした神通。俺は今からそっちに帰ろうかと思ってるんだけど」
「その、すいません。あの後寝てしまってて・・」

だと思った。
起きてたら一時間たっても帰ってこない時点で電話なりしてくるからな。
どこで遊んでるんですかみたいな。
「それで、いま野分ちゃんと話していたんですけど、えっと…代わりますね?」
「あの、もしもし」
「はいもしもし、すっきりしたか?」
「ええ、とてもすっきりしました」

ちょっとからかって言ってみたら、全然効いてなかった。
しかも、間髪入れず返事された・・

「んで、どうしたの?」
「神通さんとお話していた時に、実は色々おかしいことがあったのを思い出しまして」
「おかしいこと?」

ええ、と野分は一拍置いた。

「普通遠征ってお昼に行うんですよね?」
「まあ、そのほうが多いわな」
「私が遠征に行くときはいつも夜だったんです」
「え?昼は?」
「他の子がやっていたと思うんですけど、私の時だけは必ず夜でした」
「かなり時間かかるところ?」
「いえ、三十分程度の輸送護衛でした」

夜間に輸送護衛?
夜の深海棲艦の恐怖を知っているならやらないはずだ。
しかも、なんで野分の時だけ?

「そして、お金を向こうに預けて、代わりに植物の種子を貰ったことがあるんですよ。『よろしく』って言われて」

種子?お金??
…まさか

「麻薬…か」
「え?」

密輸とか、そんなものの比じゃないものが出てきた。

「それで?お前さんのいた鎮守府の名前は?」
「はい、『禁則事項』鎮守府です」
「…え?」

野分から出た鎮守府の名称はここの鎮守府とは全く違うところだった。

「どうかしましたか?」
「あれ、『疑惑の』鎮守府じゃないの?」
「すいません、どこですか?そこ」

どういうことだ?
あの密輸船の船員たちは資材とかは『疑惑の』鎮守府のものだと供述したと手紙に…

「すまん、一回切る」
「わかりました」

一回深呼吸して頭をリセットして、整理しよう。

まず、密輸船のやつらは積み荷は『疑惑の』所の物だと供述した。
次に、自分たちの独自調査でも『疑惑の』所が意図の分からない遠征を繰り返していることや、資材とかの変化が細かいところだが、変なところがあった。
ここまで見ると、もう『疑惑の』鎮守府は真っ黒みたいな感じだが、ここで野分の証言が一気にひっくり返した。
野分は『疑惑の』鎮守府に所属していたのではなく、『禁則事項の』鎮守府所属だった。
野分が遠征に行くときは夜間で、行きにお金、帰りに植物の種を運搬していた。

あれ?そうなると『疑惑の』鎮守府は密輸疑惑だけ?
そうなると、調べる対象は『疑惑の』鎮守府じゃなくて『禁則事項の』鎮守府か。
骨折り損とまではいかないが、なんか損した気分だ。

ピコピコピコ

「はい、坂之上です」
「よう、捜査進んでるか?」

電話は先輩である新蕩さんだった。

「まさかのどんでん返しですよ。捜査していたところとは関係ない新しい鎮守府が候補に挙がってきまして」
「ん?というと?」
「実はですね…」

説明中

「…というわけなんですよ」
「ほう~」
「ですから、今から向こうのほうに行こうと思っています」
「いや、お前はそこでもう少し調査をしろ」

なんで?

「なんでですか?こっちはもう密輸ぐらいしか疑惑が」
「そうでもない。『疑惑の』と『禁則事項の』はどういう関係なんだ?特に片方は麻薬密売の容疑があるんだろう?」
「そうですけど」
「間に別の場所がまたあるかもしれないが、『疑惑の』ほうも麻薬密売の可能性がるぜ?それに密輸船のやつらの証言だが、あいつら、『疑惑の』鎮守府の物としか言ってないぜ?なのに野分は『禁則事項の』所出身だって言ってるんだろ?おかしいと思わねえか」

新蕩さんの指摘に、古い表現の仕方だが、そこで頭に電流が走ったような感覚がでた。

「まさか、密輸船の資材は『疑惑の』方に送るものであり、すでに取引が済んでいたから『疑惑の』鎮守府の物と言ったってこと…?」

それにその想像があってるなら、新蕩さんの言う通り、ここも麻薬関係のグループということになる。
それならと思った瞬間、ガツン!!と後頭部を何か固いもので、殴ら…れ……た。




明るい、それに埃っぽい匂い。
そして、ずきずきと痛む後頭部…。

「やあ、お目覚めかな?」

ひょろ長いというわけでもない、ただの中肉中背の男がいた。
周りにはガラの悪そうな兄ちゃんがいっぱい。

「ここは…」
「さあ、どこでしょう」

だろうね。
その反応はまあ、予想していた。
って、うん・・?

「ああ、縛ってありませんよ?理由がありませんし」
「理由がない…?」
「ええ、本当は話し合いをしようと思ってここに連れてこさせたんですが、何かの手違いで乱暴に招待してしまいましたが。ああ、頭の傷はすでに治療しておきましたので大丈夫ですよ」

本当だ、包帯が巻かれてる。
うれしくも何もない。

「で、話し合いだって?」
「ええ、どこまで私たちのことを掴んだのか気になりましてね。あなた、午後からずっと色々かぎつけまわっていたでしょう」
「まあ」
「どこまでわかりましたかね」
「何をだ?」
「とぼけんじゃねえ!!」

後ろにいた怖い兄ちゃんが凄んできた。

「この鎮守府が色々怪しいから調べに来たんだろうが、ああ!?」
「ああ、そのこと」
「っ!てめえ、いい度胸を…!!!」
「やめなさい、大事な客人です」
「だがよう!!」
「この人を敵に回したりすると処理が面倒くさくなります。それに、こちらに引き込むと一層安全になるんです。まあ…反対したら自由にやってもいいですけどね」

殺すってか…

「さて、どこまであなたは私たちを調べたんです?」
「わからんというのが正直なところだ。ここの鎮守府の評判が良かったからなんとなく調べてみたらいろんなところが計算合わなかったり、行動がおかしかったりしたんでな。それに、昨夜捕まえたやつらからここの鎮守府に配送される予定だったものを押収した。それでここの閉鎖命令を出そうとした矢先に、全く違う鎮守府が重大違反候補に上がるし…。正直頭を悩ましていた」
「悩ましていた、ね」

頭いいな。
きちんと全部理解していやがる。

「でも、わかったんだろう?」
「ああ。鎮守府の周りに植えていた花、あれ全部麻薬だろ」

返事はない。
なら続けよう。

「そして、どこかは知らんが中間地点に運び、そこで取引をしていたんだ。昨日保護した艦娘はそのことを不審に思い、彼女の所属していた鎮守府の司令官に聞いた。まあ、下手に答えると邪魔になるとでも思ったんだろうな。最初は彼女を解体しようとしたはずだ。でも、そうすると話される心配があったからここに送りつけようとしたんだろう。世話代みたいな感じで資材と一緒にな。という推理だが、どうだろう?」
「はっはっは!すごい!見事だ!ほとんどあってる!」

周りの怖いお兄ちゃんたちは拍手してくれた。
司令官は本当にうれしそうに笑った。

「すばらしいな、君は。そんなに推理力があるにもかかわらず、ただの、いや、少し周りとは違うが田舎の鎮守府で細々とやっているのに違和感を持つよ」
「細々と?」
「そうだ!日々艦娘たちのご機嫌に左右され、上からの命令は聞かねばならず、給料は大して高くはない!!君ほど頭がいいなら、もっとこの鎮守府という特殊な場所の利点を使ってもおかしくないというのに!!」

鎮守府の利点…。

「一般者、警察の立ち入りを禁止する条項か」
「そうさ、憲兵のやつらは艦娘で特別な接待させておけばなんとでもなる。おかげでだ!もう、かなりの額を稼いだ。私はいつでも自由に、一生遊んで暮らせる!!…のだが、君が気付いてしまった。これでは私の楽しい第二の人生が真っ暗に塗りつぶされてしまう。そこでだ、十分な見返りを渡すから、ここは異常なしとしておいてくれないかね?」

頭がすーっと冷えていく。

「そうだな、君の鎮守府にいない艦娘をそちらに渡してもいいぞ。ん?」

反対に体が熱くなってくる。

「それでも不満かい?なら、何が欲しいんだ??」
「今、最も欲しいものか…」

上着の内ポケットに入れておいた手袋をつけた。
もう一つ、細く、丈夫で先端に錘をつけたながい線を二本出す。
隠す必要はない。それぞれの手に線を持った。
カンと固い錘が床に落ちた音がした。
それを合図に怒りを爆発させる!

「お前の首だ!!」

怒鳴ると同時に両手を振った。
速く、鋭く、一番近かった司令を襲った。
はずなのに、そこには全く違う強面のお兄さんがいた。
何が起こったのかわからないのだろう。
突然の怒りに驚いた顔のまま、線を打たれた両腕から鮮血を噴き出し、倒れた。

「やってしまえ!!」

一番奥まで退避していた司令が周りのお兄さんに号令した。
一拍遅れて周りの怖いお兄さんたちが手に得物を持ち、襲い掛かってくる。

「うおおりゃ!!」

自分の座らされていた粗末な椅子をやつらに向かって投げ、ひるんだすきに線を振う。
2人、頭から血を流して倒れる。
振り回していた金属バット絡めとり、ぶん回す。
それに当たって一人昏倒した。

「く、くそ。この野郎が!」

何人も倒されていくうちに一定距離に入れば例外なく打倒されることに気付いたらしく、自分を中心とした円が自然に出来上がっていた。
誰もその中に入ってこようとしない。
自分も動こうとしなかった。
向こうは自分から積極的に倒されたくないだろうし、自分は瞬発力ぐらいしかないから肉弾戦になるとヤバい。
さて、どうする…
そう思った時だった。
パシュっと音が響き、自分の足から血が吹き出し崩れ落ちた。

「!!??」

何が起こったかわからない。
いきなり足から血が噴き出したのだ。
相手の囲みが解けて一気に迫ってくる。
近づけさせまいと線を振うが、目標を定めずただただ振う線に当たるものはなく、簡単に蹴られた。
わざと派手に転がって距離をとろうと思ったが、転がった先に別の兄さん。

「おら起きろや!」
「ぐっ!」
「へいへい、さっきまでの力はどうした?」

サッカーボールのように蹴られ、または殴られる。
何度目かわからないが散々ボコられて地面に倒れた時、奥にいる司令が鉄砲を構えていたのが見えた。
そいつはいい気味だと笑っていた。
悔しい。
けど、力がもう入らない。

「もう、だめか…」

反抗する力も、俺の武器である線ももうなかった。
殴られて、気を失ったら捨てられるんだろう。
兄さんが金属バットを振り上げるのがスローモーションで見えた。
来たる衝撃に目をつぶる。

すまん、野分。
お前に代わって復讐してやろうと思ったのに…



「……?」

衝撃が、こ、ない?
恐る恐る目を開ける。

「遅く成りました、提督」
「神通!」

艤装を展開した神通が木刀でバットを受け止めていた。

「ぐわっ!」
「がああああ!!!」

入り口では立て続けに悲鳴が起こった。

「大丈夫ですか?」
「提督!ご無事ですか!?」
「野分、明石!!」

やはり艤装展開した二人がそれぞれ得物を持っていた。

「というかよ…なんで、俺の居場所…わかったんだ……?」
「提督の上着、実はハァ!発信器がエイッ!付いてるんです、エイヤッ!!」

マジかよ。

「提督、大丈夫…じゃなさそうですね。さすがに私の治療だけじゃ無理ですね、これ」
「向こうの司令は?」
「私がぶっ飛ばしました。安心してください」

野分が指差した先にはどこから持って来たのか、艦娘のパワーで殴られ気を失った司令たちがロープでぐるぐる巻きにされていた。
駆逐艦とはいえ、強いな。

「ハァーーーッ!!」

いつの間にか、囲んでいた兄さんたちを神通が全員倒して、いや、文字通りぶっとばしていた。
残心で少し構えていたが、それを解くと凛々しい顔から一転、泣き顔になって戻ってきた。

「ご、ごめんなさい!私がもう少し早く来ていればこんな傷負わなかったのに…」
「神通…」
「と、とりあえず早く救急車を!!えっと110番!?」
「落ち着いて。俺のことを思ってくれるのはうれしいけど、とりあえず先輩に連絡だ。そんで支持を仰ごう…って携帯無いな。明石、お前持ってる?」
「急だったので向こうに置いてきちゃって…」

マジか。
さて、どうしよう…

「いえ、持っていますよ。ほら」
「へ?」

野分の手には明石の携帯があった。

「急いで出発するときに机の上に置いてあるのを見つけたので持って来たんです」
「ありがとう野分ちゃん!!」

神通が野分に抱き着いた。
そこまでが、俺の限界だった。

「て、提督!?しっかりしてください!!」
「明石さん!早く177番を!!」
「落ち着いてください神通さん。救急車は119番です」

バカ…天気聞いてどうするんだよ……
そこで意識が落ちた。




資材密輸阻止から始まり、野分の保護、最後は麻薬の製造・密売の発見。
しかも、人身売買容疑、麻薬製造容疑、資材不正受給容疑、提督法違反容疑で大将一名。
人身売買容疑、麻薬密売容疑、資金不正利用容疑、提督法違反容疑で大将一名。
計二名の大将を逮捕するということで幕を閉じた。
超の付く大騒ぎとなったのだがこの事件はニュースにならなかった。
ただでさえ艦娘があまり世間一般に受け入れられていないというのに、それを監督する立場である提督が率先して悪事を働いていたなんて公表したら、五月蠅いのが十中八九出てくるから…

『…ということで上層部が握りつぶした』
「はあ」

病院…ではなく、鎮守府敷地内の自分ちにて、布団に寝っ転がりながら電話で先輩から気を失ってからのことを聞いていた。
怪我のほうは全治二~三週間程度、そして少なくとも一週間は安静にしておけとのこと。
怪我の割には軽傷らしい。
打たれた頭も、撃たれた足も問題なし。

『まあ、上は今回のことを相当重く受け止めてるみたいだな。来月から抜き打ちで全鎮守府で視察とか検査とかするらしい』
「何を調べるかによって大きく変わってくるでしょうね。規模とか本気度とか。賄賂とかもありそうですし…」
『賄賂ねえ。まあ、そこまでは知らないし、どうでもいい』

どうでもいいのか?

『次に今回の報酬だな』
「はい」
『今回は、お前さんのおかげで潰した二か所の鎮守府の全資材のうち10%。特別休暇の権利を10日分。今回かかる医療費全額。最後に今回お前さんが保護した野分着任の認可だ。なお、野分の件は彼女たっての願いでもあるので拒否権はない』
「拒否なんかするわけないじゃないですか!あなたがいきなりこんな仕事振ってくる所為で拡張作戦やってないんですからね!?」

3つめの作戦が終わったとほぼ同時にこの仕事の依頼が来た。
そのおかげで出撃予定だった主力組のほとんどが「勘違いだったもんで悪いけど中止」と伝え、散々文句を言われた。
みんなよりも先に野分が来る可能性があることを伝えていた舞風は大きなショックを受けてふさぎ込んでいた。
瑞鶴の誕生日は一緒にいてやれなかったし、2日で終わらせるところが1週間もかかった。
帰ってきたらみんな心配するよりも不満とかめっちゃ言ってくるんだもん。
結構傷つきましたよ?

『あ~、それは悪かった。お詫びと言っちゃあなんだが、拡張作戦の成功報酬も出るから。わかってると思うけど、野分以外な』
「嘘!?なんで出るの!!??」

なんなのこの人。
ぜったい佐世保にいるただの大将じゃないでしょ。
下手すれば、中央の上層部とほぼ同じ権利持ってるんじゃないの?

『連絡はこんなけだ。質問は受け付けないから。ほんじゃ、しっかり怪我直せよ』
「あ、ちょっ!」

切れた。
かけ直してやろうと思ったけど、どうせ出ないだろうし、出ても秘書艦でケッコン相手の霧島が申し訳なさそうに謝ってくることが目に見えてるからやめた。
疲れたということもある。

「というわけで、聞いての通り君はこの鎮守府に所属することになった。いや所属する願いが叶った、けど、本当にここでいいのか?」

布団の隣、じっと先輩とのやり取りを見てた(聞いてた?)野分に言った。

「はい。駆逐艦野分です。これからよろしくお願いします」
「そうか。それじゃ改めて、坂之上 連理だ。まあ、提督なり司令なり好きに呼んでいいけど」
「けど?」
「オフの時は提督とかで呼ばないでくれな?」
「はい!」

台風一過

「…以上が今回の連絡です。ほかに質問等ありますか?」

無いな、と思った。
ここは大湊警備府の総本部。
大湊が管轄するすべての鎮守府の提督たちがここに集っていた。
周りの提督たちも資料を読んでいるか、となりの提督と話していた。
誰も手を上げようとしない。

「それでは今日の定例総会は終了します。みなさん、お疲れ様でした」

「「「お疲れ様でした!!!」」」

壇上の人が一礼して去ると、示し合わせたかのように周りにいた提督たちも一斉に帰り始めた。
誰もが早く自分の鎮守府に帰りたいんだろう。
今日は扶桑が改二になったのと、明石専用の工廠を増築する許可が出た。
自分も帰ろうとしたら呼び止められた。

「よう、坂之上じゃねえか」

「おう、久しぶり。松浦」

自分よりも年上だが、階級や着任時期が一緒ということでよく話す提督だった。
ため口なのは向こうがそれを望んでるからだ。

「元気そうだな」

「そっちこそ。扶桑と結婚したんだって?」

「なんだよ、知ってたのか」

まあな、と言っといた。
話していて面白い人だが、疲れていたのであんまり今日は話したくない。

「扶桑の改二が解禁されたんだ。早く帰らなくていいのか?」

「それがそういうわけにもいかないんだ」

「何やったんだよ」

「俺は扶桑以外にも結婚してるんだよ」

そういえばそうだった。
松浦は俺よりも要領がいいから、次々と練度を最大値まで上げ、ケッコンカッコカリをしていた。

「そしたらよ、大和が「また浮気したんですか!?」って言いはじめてよ。それが周りに連鎖してって…」

「大荒れだと」

泣きそうな顔で頷いた。
あほらしくて、大きくため息を吐いてやった。

「みんなが納得するような説明をしなかったお前が悪い」

「いや、説明したって」

「それでも本妻の大和が納得してないんだろ?それじゃあしたって言わねえよ」

「だよなあ…」

ま、これ以上はアドバイスのしようがない。
自分のことならまだしも、他人の痴話喧嘩まで世話したくない。

「それよりも、そのマフラーいいな。どこで買った…いや、誰からもらった?」

なんで誰かから貰ったってわかるんだよ。

「俺の推理だと…軽巡からだな」

「もらったのは当りだが、クラスは外れだ。それじゃ、俺は急ぐもんで」

おい、ちょっとその話詳しく!とか言う松浦を完全に無視して、俺は鎮守府に向かって、やや早歩きで歩き出した。








「ただいま~」

鎮守府に帰ってきたのはあれから二時間後だった。
大きな事故もなかったので順調に帰ってこれたのだが、やっぱり遠いと思う。

「お帰りなさい」

出迎えてくれたのは天津風だった。

「おう、ただいま」

「ふふっ、よく似合ってるわよ。そのマフラー」

「本当にありがとな。おかげで寒くなかった」

「どういたしまして」

ご機嫌だ。
頭の煙突からぽっぽっぽと煙が出てる。

「片付けはどこまで進んだ?」

何せ、昨日の逃走中はすごいことになっていた。
途中からゴム弾とはいえ、発砲してきたからな。
今思い出せば、よく俺は生きていると思う。

「まだ半分くらい。鳳翔さんや筑摩さんが陣頭指揮してるわ」

ま、あの二人が指揮してるんだったらすぐとはいかなくとも、ばらばらにみんなが動くよりは早く終わるだろう。
そこで天津風と別れた。
彼女も掃除に駆り出されている途中だったらしい。
見送ってから執務室に入ると、

「お疲れ様でした、提督」

五月雨が待っていた。
どうやら今日の秘書官は彼女らしい。
実は秘書艦はよっぽどの事が無い限りこちらからは指名しないので、誰が秘書艦かは顔を合わせるまで知らない。
天津風がここの所ずっとだったが、それは珍しいことでもあった。

「今日は五月雨か。よろしく頼むよ」

「はい!一生懸命、頑張ります!」

元気だなあ。
とりあえずマフラーをかけて、いすに座った。
同時に五月雨がお茶を出してくれる。

「はい、お茶です。それと、新蕩さんからお電話が来てましたよ?」

「先輩から?」

「ええ、なんでも今日、大本営が発表したことの補足なんだとか言ってました」

ちゃんと電話でメモを取ったのか、小さなメモ帳を取り出して報告してくれた。
きっと先輩の話は今日の発表されたことの結果報告とかだろう。
扶桑の改二の条件とか。

「それと、明石さんから要望がありまして」

「自分の工廠を持ちたい・・とか?」

「えぇぇ!?なんでわかるんですか!!??」

それから自分の持ってる手帳をハッと見て、後ろに隠した。

「もしかして、見ました?」

「まさか。今日の大本営からの通達でそのようなことがあったからな」

「そうでしたか…。てっきり、中身を見られたのかなあと思って。あははは…」

「よく落とすもんな、手帳」

「あう~」

そういうところが五月雨っぽかった。
見てて面白いし、いじっても面白い。

「つか、あいつが工廠を持ちたい、ねえ…」

「変わりましたよね、明石さん」

「ほんとだよ」

こっちに来た時にはろくに工具も使えなかったのに…

「いいなあ」

ぼそっと五月雨が言った。
思わず笑ってしまう。

「な、何ですか~」

「いや、別に?」

ドジをなくそうと日々頑張っているのは知っていた。
確かに、うちに来た時よりもはるかにその回数は少なくなってた。

「大丈夫、お前も結構変わってるから」

「それって変人てことですか!?」

予想もしてなかった五月雨の言葉にまた笑った。






「んで、自分の工廠を持ちたいって?」

あの後、五月雨に明石を呼んでもらった。
ちょっといじりすぎたからちょっと怒ってたけど、それでもちゃんとやってくれたからいい子だ。

「ええ!なんか作るっていうよりも、改造をしてみたいなあって」

「工廠というよりも実験室みたいですよ、これ」

明石から渡された工廠の間取り図と欲しいものリストとかを見ていた五月雨が呆れたように言った。
たしかに、フラスコとか絶対使わないだろ。

「んで?どういう改造とかしてみたいの?」

「どういう、ですか…」

明石の目がキランと光ったような気がした。

「聞いてくださいよ!今まで砲撃は弾を使うしかありませんでしたが、こう、なんていうのかな?光線で敵を穿つみたいなやつを!」

「で、さらに改良して、光線を打ったら相手を微粒子レベルまで分解するのか?」

「そうそう!そういうのですね~」

「あと、合体して威力アップするのもいいですよね~」

「お。五月雨ちゃん、そのアイディアもらいますよ!」

「本当ですか?やったあ!」

最初は聞いていただけの五月雨も話に加わり、ヒートアップしてきたときに、不意に声を低くした。
顔からは笑顔を消す。

「…で、それは実現できそうなのか?」

明石も真顔になる。

「できると思います?」

しばらくにらめっこ。
先に音を上げたのは明石だった。

「私には無理です。ただ、兵装の改良くらいならばできると思います」

「そうか、なら許可しよう」

「本当ですか?」

「本当だ。今日、大本営から同様の通達も下ったしな」

扶桑の改二も来たけど、それはまだ無理だということを知ってた。
だからあえて伏せておく。

「ただ、今まで以上に忙しくなるぞ?酒保に工廠、それに臨時の休憩所に、出撃もある」

「問題はそこなんですよね~」

ずっと見ていた限り、今でもいっぱいいっぱいだ。
そこにさらに増やすと、今度は明石が倒れてしまうのではないかと思った。

「そこで、お前さんの店にバイトを雇うのはどうだ?」

「バイトですか?」

「今日はみんな片付けで働いてるが、普段は何もなくて暇な奴らも多いだろ」

「確かに…」

「バイト代とかは必要経費に盛り込んじゃっていいから」

「じゃあ、そうします!そのほうが私も工廠のほうに打ち込みやすくなるので!!」

「了解。んじゃ、こっちの方で新しい工廠をつくることとかを上に掛け合ってくるから、しばらく待っててくれ」

「ありがとうございます!!」

その時の明石は本当にうれしそうな笑顔だった。






「うん…?」

「あ、起きられましたか?」

いつの間にか寝てたらしい。
ちゃんと転がって寝てたんじゃなくて、机に突っ伏して寝てたもんだから体が痛い。

「あ~、すまん。寝てた」

「良いですよ。昨夜は大変でしたからね」

思い出したように笑った。
今気づいたけど、いつの間にか上着をかけられていた。
そのおかげでぐっすり寝れたんだろう。

「五月雨…」

「はい、お茶ですね」

そう言って奥に行くとすぐに持ってきてくれた。

「それと…」

「はい、書類のほうは作っておきました。あ!ちゃんと白露お姉さんや夕立お姉さんに見てもらいましたから間違いはないです…たぶん」

「えっと・・」

「今日の夜ご飯ですか?」

「そうそう」

「それなら大和さんがオムライス作ってくれてます」

「あとは…」

「遠征の皆さんならもうお帰りになられて、今休んでいます」

…全部読まれてる。
一応パラパラと作られた書類も見てみたけど間違いらしい間違いはなかった。

「なんか…ごめんな」

「いえいえ!私、提督のお役に立ちたくてやったことですから」

滅相もないというようにぶんぶんと手を振る。

「んじゃ、ありがとう。おかげで助かった」

「そんな…」

そこで五月雨は何か思い出したらしい。

「あの、1つお願いがあるんですけど…」

「どうした?別にめちゃくちゃな奴以外だったら何でも聞いてやるけど」

「なんでも!?」

言いすぎたかなと思ったけど、まあ、俺が寝てる横で色々仕事してくれたからいいとするか。
それに、五月雨はなんか困らせるようなことを言ってこないと確信に似た感情を思っていた。
そして、それは当たってた。

「じゃあ、私を撫でてください。よく頑張ったねって」

照れて顔が真っ赤。
なに?すっごい可愛いんだけど??

「提督?」

「あ、ああ。いいぞ。よく頑張ってくれたね、ありがとう」

やさしく頭をなでてやる。
気持ちよさそうな顔をした。
しばらく撫でてやってから、急に「用事を思い出したので!」と言って出ていってしまった。
それから五月雨はやってこなかった。
まあ、ご飯食べたらおしまいだったから、特に咎めることもせずにそのまま終わった。







頭にまだ撫でてもらった感触が残ってる。
無意識にそこを手を触れ、にやけてしまう。

「よく頑張ったね」

提督のその言葉を、その時の優しげな顔を思い出し、枕に顔押し付けてバタバタする。
もうその行動を無意識のうちに何回もしていた。


「五月雨嬉しそうじゃん」

「白露、五月雨嬉しそうっぽい!」

何やら大変そうな面持ちで相談を受けに来た時には何事なのかと思ったが、なんてこともない書類チェックのお願いだった。
聞いてみれば提督が途中で寝てしまったらしい。
でもああして幸せそうな顔して部屋に戻ってきたということは、きっといい結果に終わったんだろう。

「でもいいなあ、夕立もほめられたいっ!」

「なら、明日の秘書艦に立候補すればいいんじゃない?」

「でもでも、競争率高いぽい~」

「問題はそこだよねえ」

ちらりとベッドに転がって、二へ~っとしてる妹を見た。
だらしないと同時に、本当にうれしそうだ。
たぶん、ご飯食べることも忘れてる。

「本当、競争率高いからねえ…」

きっと昨夜の天津風事件がトリガーになったのだろう。
ここのみんなはどこかゆっくりしてるから、提督に対しても奥手の子が多かった。
ところが今日はもう、ほとんどの子が秘書艦くじに参加。
運よく五月雨が、並み居る幸運艦を押しのけて秘書艦の座をゲットした。
明日もたぶん、大変な騒ぎになるんだろう。

「あれ?どこに行くっぽい??」

「ちょっと散歩しに行ってくる」

なんて言うのは嘘で、提督のところだ。
ちょっと加熱し始めてることを伝えに。
ついでに自分も褒めてもらいにいった。

チェックのマフラー

ほんの一週間前までまだ暑いなと思っていたのに、急に寒くなった。
もう秋かと思うのと同時に、艦娘たちは一斉に衣替えを始めた。
もちろん、提督の俺も例外じゃない。

「よいっしょっと」

だから久しぶりに押入れを開いていた。
大きく「冬服!」と書かれた段ボール箱を発見し、引っ張り出す。
その時、戸がノックされた。

「どうした?」

入ってきたのは天津風だった。

「暇なのか」

「まあね」

天津風や鳳翔、それに榛名とかは寒くなることを見越して先に衣替えを終わらせていた。
逆に言えば彼女たち以外は今、衣替えで大忙し。
あるいは町に行って服を買いに行っていた。
だから、先に終わらせていた天津風が暇になったのだ。

「で、どうなの?服は見つかった?」

靴を脱いで上がってきた。
そして段ボールの中をのぞいてくる。

「今さっきな。あとは全部入れ替えるだけ」

「あら、早いじゃない」

「そうか?」

押入れの中には布団とゲーム、それに少しの本しか入っていないからなあ。
見つからないという状況がわからない。
そんな思いを読んだのか、

「女の子は服が多いのよ。それに色とかこだわるし、あなたみたいに入れ替えて終わりっていうわけにはいかないのよ」

「へ~」

話ながら次々と服を入れ替えていく。
天津風も手伝ってくれた。

「黒が多いのね。他の色ももっと揃えればいいのに」

「別にいいじゃん、着れれば」

着れなくなれば新しい服買えばいいんだし。

「もう少しそういうのに気を使ってみたら?そしたらもっと人気が出るかもしれないわよ?」

「え~」

「嫌なの?」

「嫌じゃない。けど、ちょっと考えもんだな」

客観的に見ても俺は人気のある方だろう。
それはこの鎮守府にいる男性が俺だけという状況だからであるだろうし、他のほとんどの鎮守府でも同じのはずだ。
噂では提督を巡って争いが起きたというものもあるくらいだ。
そうなるのは嫌だ。

「よ~し、服はこれでおしまい!」

「服は?他にも何かあるの?」

不思議そうに首をかしげる天津風。

「手袋とマフラーだな。あれらはやっぱり欲しい」

というわけで捜索開始。
しかし、

「ない…」

「ないわね」

しまったはずの防寒具が一つ残らず無くなっていた。

「もう一度探す?」

「いや、いいわ。こうなるとなかなか出てこないし」

無いからといって凍え死ぬわけじゃないし。
それに、

「もうすぐお昼の時間だろ。飯食いに行こう」

お腹が空いていた。















衣替えをした日から数日たった。
日を追うごとに寒さは強くなっていき、いつの間にか憩い場にはストーブが。
執務室にはこたつが出されていた。

「はい、お疲れ様」

「ああ、ありがと」

今日も秘書艦になっている天津風があったかいお茶を出してくれた。
飲めば体の中からじわ~っと温まるのがわかる。
こたつは出したけど、まだ電源は入れてない。
しばらく二人でお茶を飲みながらお菓子をつまんでいた。

「そういえば、あれから出てきたの?」

「…何が?」

一服したところで急に天津風が聞いてきた。

「マフラーよ。あの後もいろいろ探していたみたいだけど」

「ああ、マフラーか。諦めた」

なんか、もう出てくる気配がなかった。

「そう、なの」

なぜかちょっと嬉しそうなのが気になったけど、まあいいや。

「ああ、手袋は見つかったのにな~。どこ探しても出てこないんだよ、これが」

「ふうん…」

「まあでも、手袋だけでも出てきたのだから、これでいっかと思って」

出てこないものをいつまでも気にしても仕方ないし、それよりもまだ目の前にある書類を片付けるのが重要だ。
肩をぐるっと回す。

「さ~って、休憩おしまい!がんばっていきましょうかね!!」

「そうね、じゃあまずはこの書類なんだけど、ここ、計算間違えてるわ」

「げっ、マジか」

「それと、ここの出撃記録だけど、この時の旗艦は榛名さんじゃなくて山城さんよ」

「おおう…」

その後もいろんな間違いを指摘された。
だが、やられっぱなし(?)というわけでもない。

「天津、ここの木曾の「そ」が間違ってる」

「あらら…」

「それに、俺の名前間違えてるし」

「うそ!」

「ホント。ほらここ」

というような感じで一日が過ぎてった。









「天津~」

「…」

「お~い、天津風?」

体面に座る天津風に声をかけたが、反応が返ってこない。
何度か呼んだのだが、やっぱり反応が返ってこない。
不審に思って書類から顔を上げて見てみると、幸せそうな顔で寝ていた。

「またか…」

思わずペン先でこめかみを抑える。
ここ最近、天津風は居眠りをするようになった。
同部屋の谷風によると、最近夜遅くまで起きているらしい。
本を読みながら唸っているときもあるらしいとのことから、なんか難しい本でも買って読んでるんだろう。
だが、こんな風に居眠りしてしまうとなると、ちょっとそれはどうなんだと思う。

「ほら、天津。起きろ」

「ん~…」

ちょっと体をゆすってみたけど、なんか起きる気配が無い。
それに、ちょっと甘い匂いが…

「って、そうじゃなくてね」

ぶんぶんと頭を振った。
ちょうどその時、誰かが入ってきた。

「何してるのじゃ?」

「利根か。見ての通り、天津風が寝たもんで起こしてやろうと思ってる」

「吾輩から見れば天津風の近くで頭を振っている変人にしか見えないんじゃが」

ちょっと引いた眼。

「えっと…ごめんなさい?」

「なんで謝るんじゃ」

「さぁ…」

他にどういうリアクションをしろと。
そんな俺を見て、利根はやれやれとジェスチャーをした。

「お主に次の海域についてどうするのか聞きに来たんじゃが」

ちらっと寝ている天津風を見た。
それから一つため息。

「どうやら無理そうじゃの」

「すまん」

「べつにお主のせいじゃない」

また後から来ると言って出ていった。

「おい、いい加減に起きろ。寝るなら自分の部屋で寝ろ」

「う、ううん…」

なかなか起きる気配はない。
寝かしておきたいのも山々だが、こっちには仕事があるし、何より秘書艦がこうだと連絡とかにも支障が出てくる。
心を鬼にして、彼女を揺さぶる。
それから五分後くらいにようやく目を覚ました。
最初は寝ぼけ眼でぼ~っとしていたが、はっきりと目が覚めてくるにつれて慌てだした。

「ごめんなさい!!途中で寝ちゃって!!!」

必死に謝ってきた。
けど、俺には怒る気はない。
いや、怒りたいけれど、それよりも天津風の体調のほうが気になってた。

「なあ、お前最近大丈夫か?寝てるは寝てるみたいだけど、どう見ても睡眠不足気味だし。谷風や時津風、島風とかみんなが心配してるぞ?夜中になんか本を読んでるらしいけど…」

「本を読んでる…。まあ、読んでるんだけど読んでない、みたいな…」

なんか歯切れ悪いな。

「とりあえず大丈夫!今日はちゃんと寝るから!!」

「それ、昨日も言ったろ?」

「あう…」

「それに、昨日今日だけじゃない。今週に入ってからずっと。」

「ごめんなさい」

「…もしかして、俺がいかんのか?」

あんまりにも間違いとか多いから?
仕事を半分投げっぱなしにしてるから??
でも、天津風は思いっきり否定した。

「違う!そんな事無いわ!!」

「ならどうして」

「それは…」

天津風が窮してしまった。
なにか言おうとしてためらっているように見受けられた。

「…わかった」

腰を上げて机の放送器具に向かった。

「お前はもう今日は休め。秘書艦もしばらく交代」

「そんな!」

「やだじゃないぞ」

ちょっと語気を強めた。
ここはわがままを許していけない気がした。
このままでは、たとえば出撃とかで取り返しがつかないことが起きても不思議じゃない

「何をしてるか分からんけど、しばらくお前は休み。当然出撃も演習も取りやめだ」

「…」

何か言おうと天津風はしてたけど口をパクパクさせるだけで、言葉にはなっていなかった。

「なんか大きな怪我とかになったらいかん。俺がいいと言うまで休みなさい」

「…」

ついに天津風はうつむいてしまった。

「天津風?」

「…わかったわ。本当にごめんなさい」

そういうと彼女は立ち上がって、

「あ、おい」

すぐに出ていってしまった。
急な行動についていけず、しばらく呆然としてしまう。

「あの…提督?」

榛名と金剛がやってきた。
2人して困ったような顔をしてる。

「今、天津風ちゃんが出ていきましたけど…」

「なんか泣いてる?ん~、怒ってるような感じだったケド、何かあったノ?」

「…いや、なんでもない。それより榛名、急で悪いが天津風に変わってしばらく秘書艦を務めてくれ」

「はい、提督がよろしいのでしたら」

急にもかかわらず、うれしいような、困ったような顔で榛名は了承してくれた。

「ヘイ、テートク!私も秘書艦やりたいデース!!」

「わかった、わかった。一日交代でしばらく頼む」

「ヤッター!!」

喜ぶ金剛に顔を背け、そっと俺はため息をついた。









秘書艦が金剛と榛名に変わってから四日たった。
みんな天津風と俺が何かあったとすぐに感じていたが、誰も聞きに来なかった。
あの青葉さえ、インタビューをしに来なかった。

「な~んか調子狂うな」

榛名と金剛はうちの古株で、秘書艦の仕事も難なくこなしてくれた。
むしろ、天津風とやっているとき以上の成果が出ていた。
なのに、なんか自分の中で歯車がかみ合ってないような感じがある。

「どうしよっかな~」

今は執務室じゃなくて、鎮守府内の自室。
ベッドに転がりながら書類を読んでいたが、さっぱり内容が頭に入ってこなかった。

「コーヒーかなんか飲むか」

書類をベッドにほかり、上着を着てドアを開けた。
その開けた先に

「あ…」

「…よう。四日ぶりだな」

あの日以来、みんなの前にすら出てこなかった天津風がいた。

「どうした、こんな時間に」

「あ、えっと…」

「?」

最初はびっくりした顔だったけど、徐々にもじもじとし始めた。
なんか言おうとしてるのはいいけど、俺の顔を見るとすぐ目をそらす。
この前のことがあるから、なんか微妙な感じの空気。

「あ~、俺に用事があるんだよな?」

こくんと頷いた。

「ま、中に来い。廊下じゃ俺が寒い」

またこくんと頷き、中に入ってきた。
なんか思いつめてると、彼女の背中を見た時思った。

「とりあえず、適当な所に座ってくれ。今、お茶出すから」

返事はない。
けど、ベッドに座ったのは音で分かった。
しばらくしてお湯が沸いた。

「ほい、ほうじ茶」

「ありがとう」

「それと煎餅。これ美味いぞ」

「うん」

ようやく緊張?みたいなのが取れて、はにかんだ。
…かわいいな。
そう思ったけど、熱いお茶を飲んで顔に出ないようにした。
天津風もゆっくりとお茶と煎餅を堪能してる。
しばらく無言だった。
けど、険悪な雰囲気とかは一切なく、むしろ居心地がいい。

ピッピッポーン

「おう!?」

沈黙を破ったのは自分のスマホの時報だった。

「日付、変わったのよね?」

「ああ、十二時だ」

いつも仕事とかゲームとかやめて寝る時間。
夜戦があるときはさすがに起きてるけど。

「ねえ」

「うん?」

天津風の声が緊張してきてた。

「今日、何の日か分かる?」

子の日だよー
なんて言ったら怒るだろうなと思った。

「いや。なにかあったっけ?」

これは全く本心。
なのに、天津風は呆れたような顔をした。

「なんか、緊張してたのがバカみたいだわ」

そしてこの言われよう。
俺、変なこと言ったのか?
という疑問は、

「はい、これ…」

彼女が差し出してきた、丁寧にラッピングされた箱と「ハッピーバースデー」と書かれた文字が答えをくれた。
もう、彼女の顔はもともと赤いのに、リンゴといい勝負なくらい真っ赤だった。

「これ、開けていい?」

ぶんぶんと何度もうなずく。
いっぺんに剥がして中身を見たい衝動を堪え、丁寧にラッピングを剥がし、箱を開ける。

「これは…」

そのプレゼントは白とブラウンのチェック柄のマフラーだった。
そして、今までの天津風の不調の原因が、夜中まで起きて何をやっていたのかが全部わかった。

「編んでくれたのか」

「うん」

「そうか」

首に巻く。
うん、すごい暖かい。

「似合う?」

「すごく」

そう言うと、彼女が抱き着いてきた。
そして、胸に顔をうずめ

「お誕生日おめでとう。提督…じゃなくて、連理さん」

もう、泣き出しそうな顔。
緊張とか、恥ずかしさとか色々ごっちゃ混ぜのような顔。
彼女の体温は高い。
その暖かさが自分にも感じた。

「天津風…」

目を、彼女が閉じた。
顔を、彼女に近づけて…

バッターーーン!!

突然の大きな音にびっくりして、離れた。
音源の方を見ると、

「「「「あ、あははははは…」」」」

外れたドアの上に重なるように漣や58、川内に利根、さらには榛名に大鳳とほぼ全艦種が倒れており、その先にはおそらくこの鎮守府の全員がいた。
もう、なんか、どうしたらいいの?この感情。

「「「私たち、見ちゃいました!!!」」」

「待てコラー!!」

一応叫ぶものの、待てと言われて待つようなやつはいない。
みんな散り散りに逃げていく。

「くっそ!捕まえるぞ、天津風!!」

「うん!!」

2人で部屋から飛び出して、駆け出した。
でも

「…くすっ」

見られたというのに、悪い感じはない。
それよりもなんか笑えてくる。

「はははは!!!」

「あはははは!!」

逃げ惑うみんなの声も、なんか温かかった。
本当にこの前のことなんか無かったのように、みんなが笑顔で、夜の鎮守府を舞台とした「逃走中」を繰り広げた。
プロフィール

結城

Author:結城
結城 史進(ゆうき ししん)
大学生から社会人に変身した。
最近は仕事をする傍らで帰ってからSS書いたりするのが趣味。
合同誌に少しながら参加していったりしてます。

最近の参加/発表作品
C90 
清霜合同(主催:kogasana様)
砲雷撃戦!よーい!合同演習四戦目 
こんにゃく合同(主催:せのん様)
坂之上鎮守府の一日~榛名、頑張ります!~
C91
潜水艦合同(主催:茶在)

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