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チェックのマフラー

ほんの一週間前までまだ暑いなと思っていたのに、急に寒くなった。
もう秋かと思うのと同時に、艦娘たちは一斉に衣替えを始めた。
もちろん、提督の俺も例外じゃない。

「よいっしょっと」

だから久しぶりに押入れを開いていた。
大きく「冬服!」と書かれた段ボール箱を発見し、引っ張り出す。
その時、戸がノックされた。

「どうした?」

入ってきたのは天津風だった。

「暇なのか」

「まあね」

天津風や鳳翔、それに榛名とかは寒くなることを見越して先に衣替えを終わらせていた。
逆に言えば彼女たち以外は今、衣替えで大忙し。
あるいは町に行って服を買いに行っていた。
だから、先に終わらせていた天津風が暇になったのだ。

「で、どうなの?服は見つかった?」

靴を脱いで上がってきた。
そして段ボールの中をのぞいてくる。

「今さっきな。あとは全部入れ替えるだけ」

「あら、早いじゃない」

「そうか?」

押入れの中には布団とゲーム、それに少しの本しか入っていないからなあ。
見つからないという状況がわからない。
そんな思いを読んだのか、

「女の子は服が多いのよ。それに色とかこだわるし、あなたみたいに入れ替えて終わりっていうわけにはいかないのよ」

「へ~」

話ながら次々と服を入れ替えていく。
天津風も手伝ってくれた。

「黒が多いのね。他の色ももっと揃えればいいのに」

「別にいいじゃん、着れれば」

着れなくなれば新しい服買えばいいんだし。

「もう少しそういうのに気を使ってみたら?そしたらもっと人気が出るかもしれないわよ?」

「え~」

「嫌なの?」

「嫌じゃない。けど、ちょっと考えもんだな」

客観的に見ても俺は人気のある方だろう。
それはこの鎮守府にいる男性が俺だけという状況だからであるだろうし、他のほとんどの鎮守府でも同じのはずだ。
噂では提督を巡って争いが起きたというものもあるくらいだ。
そうなるのは嫌だ。

「よ~し、服はこれでおしまい!」

「服は?他にも何かあるの?」

不思議そうに首をかしげる天津風。

「手袋とマフラーだな。あれらはやっぱり欲しい」

というわけで捜索開始。
しかし、

「ない…」

「ないわね」

しまったはずの防寒具が一つ残らず無くなっていた。

「もう一度探す?」

「いや、いいわ。こうなるとなかなか出てこないし」

無いからといって凍え死ぬわけじゃないし。
それに、

「もうすぐお昼の時間だろ。飯食いに行こう」

お腹が空いていた。















衣替えをした日から数日たった。
日を追うごとに寒さは強くなっていき、いつの間にか憩い場にはストーブが。
執務室にはこたつが出されていた。

「はい、お疲れ様」

「ああ、ありがと」

今日も秘書艦になっている天津風があったかいお茶を出してくれた。
飲めば体の中からじわ~っと温まるのがわかる。
こたつは出したけど、まだ電源は入れてない。
しばらく二人でお茶を飲みながらお菓子をつまんでいた。

「そういえば、あれから出てきたの?」

「…何が?」

一服したところで急に天津風が聞いてきた。

「マフラーよ。あの後もいろいろ探していたみたいだけど」

「ああ、マフラーか。諦めた」

なんか、もう出てくる気配がなかった。

「そう、なの」

なぜかちょっと嬉しそうなのが気になったけど、まあいいや。

「ああ、手袋は見つかったのにな~。どこ探しても出てこないんだよ、これが」

「ふうん…」

「まあでも、手袋だけでも出てきたのだから、これでいっかと思って」

出てこないものをいつまでも気にしても仕方ないし、それよりもまだ目の前にある書類を片付けるのが重要だ。
肩をぐるっと回す。

「さ~って、休憩おしまい!がんばっていきましょうかね!!」

「そうね、じゃあまずはこの書類なんだけど、ここ、計算間違えてるわ」

「げっ、マジか」

「それと、ここの出撃記録だけど、この時の旗艦は榛名さんじゃなくて山城さんよ」

「おおう…」

その後もいろんな間違いを指摘された。
だが、やられっぱなし(?)というわけでもない。

「天津、ここの木曾の「そ」が間違ってる」

「あらら…」

「それに、俺の名前間違えてるし」

「うそ!」

「ホント。ほらここ」

というような感じで一日が過ぎてった。









「天津~」

「…」

「お~い、天津風?」

体面に座る天津風に声をかけたが、反応が返ってこない。
何度か呼んだのだが、やっぱり反応が返ってこない。
不審に思って書類から顔を上げて見てみると、幸せそうな顔で寝ていた。

「またか…」

思わずペン先でこめかみを抑える。
ここ最近、天津風は居眠りをするようになった。
同部屋の谷風によると、最近夜遅くまで起きているらしい。
本を読みながら唸っているときもあるらしいとのことから、なんか難しい本でも買って読んでるんだろう。
だが、こんな風に居眠りしてしまうとなると、ちょっとそれはどうなんだと思う。

「ほら、天津。起きろ」

「ん~…」

ちょっと体をゆすってみたけど、なんか起きる気配が無い。
それに、ちょっと甘い匂いが…

「って、そうじゃなくてね」

ぶんぶんと頭を振った。
ちょうどその時、誰かが入ってきた。

「何してるのじゃ?」

「利根か。見ての通り、天津風が寝たもんで起こしてやろうと思ってる」

「吾輩から見れば天津風の近くで頭を振っている変人にしか見えないんじゃが」

ちょっと引いた眼。

「えっと…ごめんなさい?」

「なんで謝るんじゃ」

「さぁ…」

他にどういうリアクションをしろと。
そんな俺を見て、利根はやれやれとジェスチャーをした。

「お主に次の海域についてどうするのか聞きに来たんじゃが」

ちらっと寝ている天津風を見た。
それから一つため息。

「どうやら無理そうじゃの」

「すまん」

「べつにお主のせいじゃない」

また後から来ると言って出ていった。

「おい、いい加減に起きろ。寝るなら自分の部屋で寝ろ」

「う、ううん…」

なかなか起きる気配はない。
寝かしておきたいのも山々だが、こっちには仕事があるし、何より秘書艦がこうだと連絡とかにも支障が出てくる。
心を鬼にして、彼女を揺さぶる。
それから五分後くらいにようやく目を覚ました。
最初は寝ぼけ眼でぼ~っとしていたが、はっきりと目が覚めてくるにつれて慌てだした。

「ごめんなさい!!途中で寝ちゃって!!!」

必死に謝ってきた。
けど、俺には怒る気はない。
いや、怒りたいけれど、それよりも天津風の体調のほうが気になってた。

「なあ、お前最近大丈夫か?寝てるは寝てるみたいだけど、どう見ても睡眠不足気味だし。谷風や時津風、島風とかみんなが心配してるぞ?夜中になんか本を読んでるらしいけど…」

「本を読んでる…。まあ、読んでるんだけど読んでない、みたいな…」

なんか歯切れ悪いな。

「とりあえず大丈夫!今日はちゃんと寝るから!!」

「それ、昨日も言ったろ?」

「あう…」

「それに、昨日今日だけじゃない。今週に入ってからずっと。」

「ごめんなさい」

「…もしかして、俺がいかんのか?」

あんまりにも間違いとか多いから?
仕事を半分投げっぱなしにしてるから??
でも、天津風は思いっきり否定した。

「違う!そんな事無いわ!!」

「ならどうして」

「それは…」

天津風が窮してしまった。
なにか言おうとしてためらっているように見受けられた。

「…わかった」

腰を上げて机の放送器具に向かった。

「お前はもう今日は休め。秘書艦もしばらく交代」

「そんな!」

「やだじゃないぞ」

ちょっと語気を強めた。
ここはわがままを許していけない気がした。
このままでは、たとえば出撃とかで取り返しがつかないことが起きても不思議じゃない

「何をしてるか分からんけど、しばらくお前は休み。当然出撃も演習も取りやめだ」

「…」

何か言おうと天津風はしてたけど口をパクパクさせるだけで、言葉にはなっていなかった。

「なんか大きな怪我とかになったらいかん。俺がいいと言うまで休みなさい」

「…」

ついに天津風はうつむいてしまった。

「天津風?」

「…わかったわ。本当にごめんなさい」

そういうと彼女は立ち上がって、

「あ、おい」

すぐに出ていってしまった。
急な行動についていけず、しばらく呆然としてしまう。

「あの…提督?」

榛名と金剛がやってきた。
2人して困ったような顔をしてる。

「今、天津風ちゃんが出ていきましたけど…」

「なんか泣いてる?ん~、怒ってるような感じだったケド、何かあったノ?」

「…いや、なんでもない。それより榛名、急で悪いが天津風に変わってしばらく秘書艦を務めてくれ」

「はい、提督がよろしいのでしたら」

急にもかかわらず、うれしいような、困ったような顔で榛名は了承してくれた。

「ヘイ、テートク!私も秘書艦やりたいデース!!」

「わかった、わかった。一日交代でしばらく頼む」

「ヤッター!!」

喜ぶ金剛に顔を背け、そっと俺はため息をついた。









秘書艦が金剛と榛名に変わってから四日たった。
みんな天津風と俺が何かあったとすぐに感じていたが、誰も聞きに来なかった。
あの青葉さえ、インタビューをしに来なかった。

「な~んか調子狂うな」

榛名と金剛はうちの古株で、秘書艦の仕事も難なくこなしてくれた。
むしろ、天津風とやっているとき以上の成果が出ていた。
なのに、なんか自分の中で歯車がかみ合ってないような感じがある。

「どうしよっかな~」

今は執務室じゃなくて、鎮守府内の自室。
ベッドに転がりながら書類を読んでいたが、さっぱり内容が頭に入ってこなかった。

「コーヒーかなんか飲むか」

書類をベッドにほかり、上着を着てドアを開けた。
その開けた先に

「あ…」

「…よう。四日ぶりだな」

あの日以来、みんなの前にすら出てこなかった天津風がいた。

「どうした、こんな時間に」

「あ、えっと…」

「?」

最初はびっくりした顔だったけど、徐々にもじもじとし始めた。
なんか言おうとしてるのはいいけど、俺の顔を見るとすぐ目をそらす。
この前のことがあるから、なんか微妙な感じの空気。

「あ~、俺に用事があるんだよな?」

こくんと頷いた。

「ま、中に来い。廊下じゃ俺が寒い」

またこくんと頷き、中に入ってきた。
なんか思いつめてると、彼女の背中を見た時思った。

「とりあえず、適当な所に座ってくれ。今、お茶出すから」

返事はない。
けど、ベッドに座ったのは音で分かった。
しばらくしてお湯が沸いた。

「ほい、ほうじ茶」

「ありがとう」

「それと煎餅。これ美味いぞ」

「うん」

ようやく緊張?みたいなのが取れて、はにかんだ。
…かわいいな。
そう思ったけど、熱いお茶を飲んで顔に出ないようにした。
天津風もゆっくりとお茶と煎餅を堪能してる。
しばらく無言だった。
けど、険悪な雰囲気とかは一切なく、むしろ居心地がいい。

ピッピッポーン

「おう!?」

沈黙を破ったのは自分のスマホの時報だった。

「日付、変わったのよね?」

「ああ、十二時だ」

いつも仕事とかゲームとかやめて寝る時間。
夜戦があるときはさすがに起きてるけど。

「ねえ」

「うん?」

天津風の声が緊張してきてた。

「今日、何の日か分かる?」

子の日だよー
なんて言ったら怒るだろうなと思った。

「いや。なにかあったっけ?」

これは全く本心。
なのに、天津風は呆れたような顔をした。

「なんか、緊張してたのがバカみたいだわ」

そしてこの言われよう。
俺、変なこと言ったのか?
という疑問は、

「はい、これ…」

彼女が差し出してきた、丁寧にラッピングされた箱と「ハッピーバースデー」と書かれた文字が答えをくれた。
もう、彼女の顔はもともと赤いのに、リンゴといい勝負なくらい真っ赤だった。

「これ、開けていい?」

ぶんぶんと何度もうなずく。
いっぺんに剥がして中身を見たい衝動を堪え、丁寧にラッピングを剥がし、箱を開ける。

「これは…」

そのプレゼントは白とブラウンのチェック柄のマフラーだった。
そして、今までの天津風の不調の原因が、夜中まで起きて何をやっていたのかが全部わかった。

「編んでくれたのか」

「うん」

「そうか」

首に巻く。
うん、すごい暖かい。

「似合う?」

「すごく」

そう言うと、彼女が抱き着いてきた。
そして、胸に顔をうずめ

「お誕生日おめでとう。提督…じゃなくて、連理さん」

もう、泣き出しそうな顔。
緊張とか、恥ずかしさとか色々ごっちゃ混ぜのような顔。
彼女の体温は高い。
その暖かさが自分にも感じた。

「天津風…」

目を、彼女が閉じた。
顔を、彼女に近づけて…

バッターーーン!!

突然の大きな音にびっくりして、離れた。
音源の方を見ると、

「「「「あ、あははははは…」」」」

外れたドアの上に重なるように漣や58、川内に利根、さらには榛名に大鳳とほぼ全艦種が倒れており、その先にはおそらくこの鎮守府の全員がいた。
もう、なんか、どうしたらいいの?この感情。

「「「私たち、見ちゃいました!!!」」」

「待てコラー!!」

一応叫ぶものの、待てと言われて待つようなやつはいない。
みんな散り散りに逃げていく。

「くっそ!捕まえるぞ、天津風!!」

「うん!!」

2人で部屋から飛び出して、駆け出した。
でも

「…くすっ」

見られたというのに、悪い感じはない。
それよりもなんか笑えてくる。

「はははは!!!」

「あはははは!!」

逃げ惑うみんなの声も、なんか温かかった。
本当にこの前のことなんか無かったのように、みんなが笑顔で、夜の鎮守府を舞台とした「逃走中」を繰り広げた。
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プロフィール

結城

Author:結城
結城 史進(ゆうき ししん)
大学生から社会人に変身した。
最近は仕事をする傍らで帰ってからSS書いたりするのが趣味。
合同誌に少しながら参加していったりしてます。

最近の参加/発表作品
C90 
清霜合同(主催:kogasana様)
砲雷撃戦!よーい!合同演習四戦目 
こんにゃく合同(主催:せのん様)
坂之上鎮守府の一日~榛名、頑張ります!~
C91
潜水艦合同(主催:茶在)

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